テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

樽見鉄道が行き着く先は「存続」ではなく「廃線」

 第三セクター樽見鉄道(本社本巣市曽井中島、田中良以社長)への財政支援に関し、沿線5市町でつくる樽見鉄道連絡協議会(会長・藤原勉本巣市長)は、支援打ち切りも視野に検討を進めていることが10日、分かった。同日の大垣市議会建設環境委員会で、市担当者が「支援の最終年度を決めて支援する方向で協議を進めている」と報告。同鉄道は「支援がゼロになれば経営は不可能」としており、財政支援の議論は廃線も含めた形で大詰めを迎えている。

 委員や市幹部らが出席した同委員会で、市担当者が現在までに同協議会で話し合われている内容について報告。「(同鉄道の)経費削減は限界に来ており、今後はレールバスの車両更新も控えている。このままではさらなる経営悪化が予測される」とし、協議の方向性は厳しい見通しであることを明らかにした。
樽見鉄道、廃線含め議論 沿線5市町が支援終了も検討(岐阜新聞Web 2010年12月11日付)

という記事が岐阜新聞Webサイトに公開され、愕然とした。先月末の中日新聞朝刊には「再来年度以降の支援は未定」と書かれていて、嫌な予感はしていたのだが……。

多くの沿線市町民にとって、樽見鉄道は「なくても困らない」もの?

 経営難で存続が危ぶまれている第三セクター樽見鉄道岐阜県本巣市)について、沿線5市町でつくる「樽見鉄道連絡協議会」が、来年度1年間は財政支援を延長する方針を決めたことが分かった。再来年度以降は未定。同鉄道は年間約1億円の支援を受けても赤字が続き、支援が打ち切られれば廃線を迫られることになる。  来年度の支援額は、本年度と同じ約1億円となる見込みで、来年1月に開かれる予定の協議会総会で正式に決定する。
「樽見鉄道へ支援延長 1年間、岐阜の沿線5市町」(47news 2010年11月30日付)

樽見鉄道への資金的支援が打ち切られそうだと知ったのは、中日新聞朝刊に出ていた記事だった*1。しかし既に「支援に対する慎重論」は7月の「樽見鉄道連絡協議会」年度総会で出ていたようだ*2。初めに掲示した記事を含むこれらの「樽見鉄道」絡みの記事に対して、沿線住民から何か反応があったとは聞かない。それどころか地元建設会社社長のブログの記事*3によれば、年間6800万円も拠出する本巣市の一部地域において「踏み切りすら邪魔」という声が上がっているらしい。あるいは平成20年12月から平成21年1月まで実施された「本巣市地域公共交通総合連携計画」へのパブリックコメント募集で、寄せられた延べ18件(これも少なすぎるが)のうち樽見鉄道絡みの意見はたったの1件、それもJR穂積駅への直行急行バスに関するもので、樽見鉄道そのものに対する意見は全く寄せられていなかったという事実もある。
沿線住民の樽見鉄道存続に対する意識はもう希薄になっている。どうかすると、「なくても困らない」ものになっている。そしてそれは、大垣市議会の議事録を見て確信に変わった。

大垣市民の樽見鉄道年間利用率は養老鉄道よりも低かった。

大垣市議会の議事録をずっと調べていると、注目すべき発言が2つ見つかった。一つは2010年6月14日に開催された第2回大垣市議会定例議会。議員より地域公共交通のあり方について説明を求められた際、市長が2009年度に実施した大垣市地域公共交通基礎調査の結果を報告している。16歳以上を対象としたこの市民アンケートの結果によると、

  • 自動車運転免許の保有率:79%
  • 自家用車の保有率:72%
  • 自家用車で移動が困難な人:7%(主に高校生・大学生・高齢者)
  • 最近1年間に養老鉄道を利用した人:19%
  • 同じく樽見鉄道を利用した人:9%
  • 同じく路線バスを利用した人:31%

という結果になったそうである。そしてもう一つは2010年9月16日に開催された「建設環境委員会」での、岩井哲司議長の発言である。先に生活安全課長から樽見鉄道及び養老鉄道の平成21年度決算について報告があり、それに対してこういう発言をしている。

樽見鉄道ですけれども、年間1人当たりの利用者に対して平成20年度は160円、21年度が161円、自分で勝手に計算したんですけども、損が出ているわけですよね。ことしで見直しのときが来ているんですよね。前から問題になっていると思うんですけれども、大垣の利用者の方はどれだけ、要するに市民にとってどれだけこの樽見鉄道が有益であって、なおかつ改善はしている、改善はしていると言いながら、営業損益としてはなかなかいい数字が出てこない大変厳しい経営状況だと思うんですけども。いっそのこと、僕いつも思うんだけど、雪だるま式に膨らんでくるとか、だらだらだらだら苦しいものを引っ張っていくよりも、大垣市民にとって、多少のあれはあるかもしれないですけども、さして大きく利につながらないものであれば、この見直しの年にいっそ手を引くというのが僕はいいんじゃないかなと。養老鉄道に関しましても、1人当たりのあれは、樽見鉄道は170円台ですけども、養老鉄道は127円、135円あたりでまだ少ないんですけども、全体の損益としては大きいですよね。だから、将来的にも養老鉄道も大変厳しいものがあるのではないかなと。ただ、始まったばかりなので、養老鉄道のことは後にしましても、樽見鉄道に関してはもう大垣市としては手を引くべきだと思いますけど、そのあたりの見解はどうですか。
(2010年9月16日開催・大垣市議会建設環境委員会の議事録より、発言番号49)

2009年度の市民アンケートで樽見鉄道の利用率が路線バスや養老鉄道よりも低いという結果が出て、そして大垣市議会内では樽見鉄道の支援から手を引けと言っている議員がいる。建設的な意見、すなわち「乗客数増加のための案」は少なくとも2010年第2回大垣市定例議会議事録には見つけることは出来なかった。自家用車で移動が困難な「7%」を大多数の「自家用車を保有している住民」は切り捨てるわけだ。旧・根尾村の住民は淡墨桜と一からげにして、「バスで輸送すればいい」と考えるわけだ。終わったね、これは。

樽見鉄道は、もう終わったのか?

モレラ岐阜のために駅を一つ開設したけれど、モレラ岐阜では乗客増加には繋がらなかった。それどころかJR大垣駅前に開業した「アクアウォーク大垣」*4の影響が出ている可能性もある。旧・三木鉄道から約6000万円で中古車両を購入し、しし鍋列車や薬膳列車、あるいは社長自らアコーディオン片手に歌うという「歌声列車」まで運行しているけれど、これらですら根本的な増収には繋がっていない。一方で樽見鉄道存続のためNPO法人も立ち上げられているが、その活動の様子もマスコミ等の報道を通じて伝わってくることはない。もちろんそれ以外の住民が存続のため行動を起こしたという話もない。「沿線住民・自治体・樽見鉄道」による三者協議会が開かれたという話も聞かない。
思い出したのは岐阜市の旧・名鉄岐阜市内線。議会ではカネのことばかり言い出して、どうすれば利用者が増えるか、バスと共存できるかという案はまともに議論されなかった、という記憶がある。一方で住民グループが存続のため動いていたり、あるいは海外の鉄道事業者が路線運営を引き受けたいと打診してきたけれど、結局それで存続の機運が高まることは一度もなかった。樽見鉄道も同じ道を辿るのか。もう終わったな。何だか、悔しい。

*1:中日新聞の記事はリンク切れしているため、47Newsの該当記事へのリンク

*2:「樽見鉄道、支援継続に厳しい声」(47news 2010年7月9日付)

*3:http://www.asakawa-ken.com/archives/20101205.html

*4:ユニーグループ系「アピタ」をキーテナントとするショッピングモール。JR大垣駅とは道路を隔てた向かい側にあるが、連絡通路で既に結ばれている。