テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

日経朝刊第一面に出ていた「バス・電車 地方にリース」に、4つの疑問点(後編)

 国土交通省は2015年をめどに、地方のバスや鉄道会社に車両を貸し出す仕組みをつくる。地域単位で自治体や金融機関と共同出資会社を設立。高齢者らが乗り降りしやすい新型の車両を調達してリースする。地方の交通会社は利用者の減少で経営が悪化し、車両を更新できない例が目立ってきたため、従来よりも踏み込んだ支援策が必要と判断した。
(「バス・電車 地方にリース 国交省自治体と共同会社 公共交通維持へ企業を支援」日本経済新聞2014年9月21日付朝刊第一面)
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDF20007_Q4A920C1MM8000/?n_cid=BPRDS001

先日、通勤途中に立ち寄ったコンビニで買った日本経済新聞朝刊、その一面にこんな記事が載っていました。これを見て自分なりに調べて、だんだんと「嫌な予感」しかしてこなくなりました。
9月23日付「前編」(http://d.hatena.ne.jp/tetsumogura/20140923/)では、

  1. リース契約にはメリットとデメリットの二つがある
  2. 「車両のリース契約」に関する実例が日本国内では非常に少ない

という理由を挙げました。理由はあと2つ。それは「リース料の不当価格設定」と、「利用者獲得がまだ出来ていない状況下で購入を支援する危険性」です。

3.事実上の「車両リース一社独占」により、リース料が不当な価格で設定される可能性がある

海外では「車両リース」は結構当たり前のように行われています。丸紅がオーストラリアにおける機関車・貨車リース事業に参入した*1とか、三井物産がロシアにおいて地元複合企業と共同で鉄道貨車リース事業に参画した*2とか、結構出てくるのです。もちろん機関車や貨車に限らず、旅客列車についても「リース契約」によりリース会社から「借りる」ケースがかなり多いです。ところがそれが必ずしも企業にとっていい結果をもたらすとは限らない。イギリスの場合がまさにそうです。といっても、以下の話は一般財団法人運輸調査局が発行する「月刊 運輸と経済」2008年12月号「英国鉄道車両リース市場における問題点」*3からの又聞きなんですけどね。
1993年11月に成立した「鉄道法」により、旧・イギリス国鉄は線路等のインフラ・貨物輸送・旅客輸送・車両保有などに分割されて、それぞれが民営会社に引き継がれました。現在、線路等のインフラはネットワーク・レールが、貨物輸送はEWS社が、車両は3社ある車両リース会社(Rolling Stock Company。以降ROSCO)及び短期車両リース会社が、そして旅客輸送業務はその地域内で独占的に列車輸送業務を行う事が出来る「フランチャイズ権」を持つ、「旅客鉄道輸送会社」(Train Operating Company。以降TOC)が引き継いでいます。つまり貨物列車や旅客列車は、「EWS社やTOCがROSCOや短期車両リース会社からリース契約により借り受け、ネットワーク・レールが管理する路線の上を走る」のです。ところが旅客列車の車両リースに関してイギリス競争委員会は2008年8月、「TOCに車両を供給するROSCOの数が著しく少ないため、ROSCO間の競争が不十分である」との仮結論を出していたというのです。特に中古車リース料は新車のそれと比較して割高だといいます。
勘のいい人は「そうなるわな」って思うかもしれない。先に書いたとおり、リース料は簿価により計算されますから新車のリース料は高く中古車両は安いはずです。ところがイギリス国鉄が所有していた旅客車両はROSCO3社にほぼ全て引き渡され、中古車両のほとんどが実質的にROSCO3社の寡占状態となりました。一方で、中古車両リース事業に新規に参加しようと思うと、鉄道車両の中古車リースに精通し、かつイギリス独自の旅客列車輸送方式である「地域別フランチャイズ」について熟知している必要がある。「旅客列車を貸すよ、はい引き渡した」で手続きは終わりじゃないってことです。そして極め付けに大量に「中古車両」を持つROSCOとの競争。新規参入がなく価格競争が起きないとなれば、まぁそうなるわな。
都市部など輸送量の多い地域を担当するTOCは資金も潤沢で、自前で車両を購入することも出来るでしょう。しかし地方都市等で輸送量が少なく、経営が苦しいところは車両リース会社から安価な車両を借りるしかありません。リース料が高いと運賃を引き上げるか運転士や車掌など従業員の給与をカットするしかありません。
国土交通省が作る仕組みでは、設立されたSPC一社から赤字ローカル線を抱える事業者に引き渡されます。ここで政策として「SPCから借りたら補助金出すよ」って餌をぶら下げたら、事実上「赤字ローカル線事業者への車両リース事業は一社独占」になりかねません。イギリスよりも酷い事態になるかもしれないのです。

4.「利用者獲得ができてない」のに車両購入を支援することの危険性

地域交通の収支が赤字となって「路線廃止」が取り沙汰される時、「存続理由」の一番目に上がるのは「地域住民の移動手段の確保」です。ですが赤字経営となる理由は、「『一家に一台』どころか『一人に一台』のマイカー漬け」もしくは「地域の人口減少」もしくはその両方です。
歴史を紐解くと、1965年頃から始まったいわゆる「いざなぎ景気」の中で、トヨタ・カローラや日産・サニーに代表される「低価格の大衆車」が爆発的に売れた辺りから利用者数の伸びが鈍化していったように思います。鉄道各会社は急速に進むマイカー普及に耐えられず、1970年代以降、廃線代替バスに転換、もしくは第三セクター線として転換される路線が相次ぐのです。ちなみに「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」(国鉄再建法)の成立が1980年10月、三陸鉄道が旧・国鉄盛線、宮古線、久慈線を引き継いで誕生したのが1984年でした。さらにバブル崩壊と地域における人口の減少により、JRや大手私鉄でも廃線を決めるケースが相次ぎました。今の状況はその流れの延長線上にあります。
利用者がいないのに車両を新規に購入する。絶対経営破綻するだろそれ。販売予測が十分立てられないのに設備投資をする……いわばこの制度はそういう状況を作りかねない制度でもあります。一応そうならないために「事業計画」を提出させるそうではありますが、どこまでチェックするのかは「お役所仕事」であるし、疑問符をつけざるを得ません。
そもそも利用者を獲得するための政策は、地方自治体に丸投げしている部分が結構多いんじゃないか、と。利用者獲得のための支援って、国として何かしてるのかと言いたくなります。
ちなみに、一般社団法人日本自動車工業会が公表した「都道府県別自家用乗用車の100世帯当たり保有台数(2013年3月末現在)*4」において、「1世帯あたり1台」を示す「100」を切るのは東京(47.6)・大阪(67.5)・神奈川(74.8)・京都(85.7)・兵庫(93.5)各都府県のみです。これ以外の道県にお住まいの方は、日経新聞の記事は他人事ではないかもしれません。


とまぁ、二回に分けて書いたのだけれど、とにかくこの制度は「役所仕事」だってのを忘れてはいけません。融資関係については財務省が口を出してくるだろうし、当然ながらSPCへのOB天下りは絶対に起こる。少なくともSPCが「正常に機能する」ように、その経営状況を監視しないと後で「血税突っ込んだのに」なんてことになりかねません。車両リース事業に関してはかなり進んでいる欧米諸国から、せめて「日本ってハードウェアはいいけどソフトウェアはだめね」って後ろ指を差されないようにしないとねー、などと書いた所で、2日に渡りお届けしました長大記事はお開き。
さて、「7月6日に京都へ行って『京とあまのね』を外から見てきた」って記事を、7月31日付で書きました。その帰り、京都駅を離れてから「しまった!」と気付いたのが一つ。言わずもがなの「あれ」です。金ないから二度も行けませんが、イラストを提供した当のご本人は今頃になって撮りに行ったそうで。https://twitter.com/_matsuda98_/status/510625599920943104
事前にいつ行くって決めておけば……あ、それ漫画家には無理だわ。