テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

三陸鉄道:大赤字を出し続けているのにそれでも「鉄道むすめ」?・その1(本文の後半は書き直し)

三陸鉄道開業25周年記念 秋のさんてつ祭りを「ありすのバースデイパーティー 〜三鉄の掘り出しもの&鉄道むすめ&久慈の旨いもの トリプル嬉しい“さんてつ祭り”〜」をテーマとして開催します。

なる引用がもりくち氏のブログ「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」2009年9月18日付の記事に掲載された。もりくち氏のブログは掲載日の翌日にその記事全文を読み通した。さすがもりくち氏*1、要所を突いた指摘で私なんぞがこの問題について語るよりもはるかに要領を得たご意見。三陸鉄道の担当者が読んだら頭を抱えてしまうだろうな。
三陸鉄道がトレーディングフィギュアの「鉄道むすめ」シリーズに登場する「久慈ありす」を使ってイベントを行っている、という話は少しだけ聞いた事があった。ただその時は、「あの『鉄道むすめ』シリーズの関連グッズで知名度上げようって考えなんだろう。一時的なものさ」と、全く気にもしていなかった。しかし今回、初めて三陸鉄道公式ブログ「鉄ログ」を見て、そのあまりのぶっ飛びぶりに驚いてしまった。今回取り上げた記事だと「前夜祭列車」の部分。

★前夜祭列車の募集を開始します。
◎開催日時 平成21年10月31日(土)
久慈駅発18:30〜久慈駅着20:30頃
◎募集人員 40名限定(最小催行人員30名)
◎料金 前夜祭列車・宿泊・翌日朝食・イベント参加料込み
 おひとり様 15,000円
◎前夜祭列車の内容
  久慈ありすの好物満載弁当
  久慈ありすのスィーツ
  久慈ありすのダイヤ札車内限定販売
  久慈ありすグッズの掘り出しものを抽選等でプレゼント
  コミック作家:MATSUDA98氏も同乗します。

秋のさんてつ祭りのお知らせと前夜祭列車の募集開始(【鉄ログ】### 三陸鉄道ブログ ###)

久慈ありすのダイヤ札」って、ダイヤグラムが載っているあれではないか、というのは想像がつくが、何ですかその「久慈ありすの好物満載弁当」とか「久慈ありすのスィーツ」とかって。「関連グッズで一儲けしよう」という意図が明らかで、「鉄道むすめ」シリーズ終焉と共にものすごく酷い結末を迎えそうな気がする、と思った。こんなことする以前に、まずは「路線をいかにして沿線住民に活用してもらうか」を真剣に考えるべきではないか……私ももりくち氏と同じくそう思った。そこら辺が分かってんのかな、と。

鉄道むすめ」自体はそこそこ売れている。ただ……。

まずはトレーディングフィギュアシリーズ「鉄道むすめ」。「久慈ありす」及び「釜石まな」については公式サイトを見ていただくとして、とりあえず参考リンクを提示できる情報は以下の通り。ゲームソフト「鉄道むすめDS〜Terminal Memory〜」については割愛。

  • 発売元はタカラトミーのグループ会社、トミーテック。「鉄道会社の制服を着た美少女(美女?)キャラクター」のフィギュアシリーズで、キャラクターはもちろん実在しない。
  • 第一弾は2005年11月発売。6種+バリエーション4種。「ホビーチャンネル」の第二弾紹介記事によると、ファンから「是非ともシリーズ化してほしい」との声が相次ぎ、これを第一弾とした上でシリーズ化することが決定した、そうである。(参考:ホビーチャンネル2005年10月25日付記事
  • セガプライズコレクションにも「鉄道むすめ特別快速」エクストラフィギュアとして登場。現在までに2度投入された他、パネルが点滅する「フラッシュプレート」及び中央のボタンを押すとキャラクターが台詞をしゃべる「おんたま」も投入された。(参考:後述「鉄道むすめ」公式サイトの「関連商品紹介」)
  • ポニーキャニオン公式サイトのドラマDVD「鉄道むすめ」紹介ページにおいて、「現在(2008年10月)発売中のシリーズ第6弾までで累計販売数は80万個」との説明がある。「鉄道むすめ」公式サイトで累計販売個数の表記を探したが見つけることはできず。(参考:ポニーキャニオンホームページ内ドラマDVD紹介ページ)

トミーテック公式サイト http://www.tomytec.co.jp/
鉄道むすめ」公式サイト http://tetsudou-musume.net/


ポニーキャニオンのDVD紹介ページにある記述が正解なら、発売から約3年で80万個売った、ということになる。「Beck」ギターコレクションが2006年11月に発売を開始して、2009年8月19日時点で100万個*2リボルテックシリーズなんか、2007年に開催された「リボルテックEXPO'07」のサブタイトルが「ありがとう200万個突破」*3。脚注にデータの根拠となる記事を示したが、いかんせん、いずれも配信時期がかなり前なので比べるには無理がある。でも累計80万個という数字が「意外に売れている方」、というのは何となくお分かりいただけるかと思う。ちなみに「BECKギターコレクション」シリーズはロックバンドをテーマにした大人気漫画、「BECK」に登場したギターのミニチュアフィギュアシリーズ。一方のリボルテックシリーズは海洋堂が企画・制作を手がける関節部可動型フィギュアシリーズ。画期的な可動部分構造とそのラインナップで今も馬鹿売れするシリーズである*4
「ちなみに」の話は置いておき、ここで問題としなければならないのは「今売れていても、今後もこのシリーズが売れ続けるかどうかは全く分からない」ということ。一般論だが、キャラクター関連グッズは対象となるアニメや漫画、ゲームなどの人気がまだあるうちは売れ続けるが、なくなったら売れ行きも大きく落ちる。そして元となるアニメや漫画などがよほど世間一般に知られた作品であるか、もしくは同人誌即売会でいわゆる「ジャンル分け」がなされる作品の関連グッズに限り、作品の連載や発売等が終了した後もその人気はある程度持続する。では「鉄道むすめ」シリーズは? 元となる「作品」が存在しない上、シリーズのコンセプトは「美少女キャラ」が鉄道会社の制服を着ている、というもの。「Bトレインショーティー」のように、子供から大人まで幅広い年代層に受け入れられるシリーズになる可能性は低い。かといって日本最大の同人誌即売会コミックマーケット」において、「鉄道むすめ」というジャンルは未だ存在しない*5
三陸鉄道は関連グッズ作成の際、トミーテック及びみぶなつき氏に諸権利使用料を払っているはずだ。でも払った分だけの「見返り」はあったのか? そしてこの先も「見返り」ほしさに大切な資金を投入し続けていいのか? 毎年大赤字を出している路線なのに、諸権利使用料が払えるほど手元資金があるんだったら、それ以外の選択肢を選んだ方がよかったのでは?
……と書いた方が分かりやすいよな。

鉄道趣味とは、基本的に「現実の世界」を根底に持つ趣味世界。

私がもう一つ危惧するのは、「根本的に鉄道趣味とは、『現実』の世界を基本とする趣味」という点を三陸鉄道はどの程度理解しているか、ということだ。乗り鉄撮り鉄、収集鉄、それから(まぁもりくち氏に文句を言われそうだが)いわゆる「鉄道路線・車両擬人化」……全て「鉄道」という「現実」の世界がその趣味の根底にある。例えば鉄道模型で架空路線をレイアウトとして作成することはあっても、そのレイアウトにSF小説に登場するような近未来都市の建物を配置する人はほぼ皆無だと思う。鉄道模型関連メーカーがどこも出してない*6、という点からしてもそれは明らかだ。一方、「鉄道むすめ」はあくまでもみぶなつき氏のイラスト、「二次元」上の世界から始まっている。すなわち架空の設定から始まっているのだ。この架空設定をまるごと受け入れられる根っからの鉄道ファンは一体どれだけいるのだろうか。しかも鉄道会社は(あるキャラクターを除いて)制服などの設定に協力しただけで、キャラクターそのものの設定までは関与していない。おまけに各キャラクターごとの「物語」もない。これが東武鉄道お客さまセンターのイメージキャラクター、「姫宮なな」ならまだ鉄道ファンも付いてくるかもしれない*7が……。鉄道会社各社がそのキャラクターを販促用に使っても、「借り物キャラ」というイメージはどうしても付きまとう。そこら辺の相違点を三陸鉄道は理解した上で一連のイベントを企画しているのだろうか、と。
いや、「鉄道むすめ」シリーズの狙いどころはいいんです。上田電鉄別所温泉駅長の和装制服を基にした「八木沢まい」、和歌山電鉄名物「たま駅長」との2ショットを基にした「神前みーこ」、そして東急車輛製造のぎ装係、というかなりマニアックなところをついた「金沢あるみ」……。でも「借り物キャラ」と「根っからの」鉄道ファンに思われているだろう現段階で、年間に20万個もいくような販売個数は望めないのでは、と。

鉄道むすめ」フィギュア及び関連グッズ販売はあくまでも「話題づくり」。本気で活用するならそれなりの覚悟がいる。

「鉄道趣味」とは奥行きの(結構)広い世界。「鉄道むすめ」シリーズはその世界に繋がる入り口に置くには十分に適している。でも根っからの鉄道ファンにはたぶん「素通り」されてるだろうし、かといって万人受けするようなものでもない。だから関連グッズを含めて、その商品の購買層は限られる。購買層が限られる以上、やるなら「話題づくり」として扱うべきで、あんまり入れ込むものではない。そして逆に言うと、本気で活用するなら「ある時期を境に売れなくなる」というリスクを背負う覚悟でないとダメだ。そこら辺の「スタンスの取り方」について、三陸鉄道はたぶんまともに検討していないと思う。


……と締めくくって、本来ならこの話は終わりにするつもりだった。三陸鉄道の廃止問題が持ち上がってきたら、その時にまた取り上げてみるか、と。
ところが三陸鉄道公式ブログ「鉄ログ」のある記事を読んで、「もしかして」と思った。これ、本気で「久慈ありす&釜石まな」に「定期外利用客の獲得」という目標を託すつもりではないか、と。この件については明日以降に続きを書くことにする。

*1:本当はもりくち先生、とお呼びすべきだが

*2:人気漫画「BECK」、映画化に先立ち登場人物のフィギュア発売Yahoo!Japanニュース(オリコンからの配信)

*3:フィギュア界注目!! 脅威の累計200万個突破記念イベント「リボルテックEXPO'07」開催!!=ASCII.jp

*4:その造形美にやられてフロイラインシリーズの「逢坂凛」を買ってしまったことは、今回の話とは関係ない

*5:参考資料:コミックマーケットC77(2009年冬開催予定)の申し込みジャンルコード一覧

*6:あってもメジャーではないわな

*7:新作が出る度に「鉄道むすめ公式サイト」上で開催されるキャラクター人気投票。その第7回投票で、東武鉄道から「借りた」姫宮ななが二位の柏木ゆの函館市電イカラ号車掌、という設定)に81ポイントもの大差を付け、第一位に選ばれた。これまた別の意味で「異常」ともいえる話。