テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

三陸鉄道:大赤字を出し続けているのにそれでも「鉄道むすめ」?・その2

前回の記事(http://d.hatena.ne.jp/tetsumogura/20090924/p1)で、

  • 三陸鉄道が「鉄道むすめ」というフィギュアコレクションシリーズのキャラクター、「久慈ありす&釜石まな」で知名度を上げようとしていること
  • 鉄道むすめ」シリーズは累計80万個(2008年10月段階)販売している、各鉄道会社の制服を着た女性(美女あるいは美少女)キャラクターのフィギュアシリーズ。だが、今売れているからといって今後も売れ続けるとは限らない。
  • 鉄道趣味とは、根底に現実の路線や車両など「三次元」の世界を持つ趣味分野。一方、「鉄道むすめ」は「二次元」という仮想の世界から生み出されたもの。
  • 鉄道むすめ」の登場キャラクターは、東武鉄道お客様センターイメージキャラクターの「姫宮なな」を除いて、鉄道会社のオリジナルキャラクターではなくトミーテック及びみぶなつき氏が作り出したもの。
  • 「現実の世界」をその基本的な部分に持つ鉄道趣味と「仮想世界」から生み出された「鉄道むすめ」。その上、そのキャラクターは一人を除いて全て鉄道会社のオリジナルキャラクターではない。これでは「根っからの」鉄道ファンには恐らく受け入れてもらえない。では万人受けするかというと、「美少女(美女?)キャラクターのフィギュア」である以上、その可能性も低い。よって本来なら「話題づくり」として扱うのが適当で、もし本気で活用するつもりならそれなりの覚悟がいる。三陸鉄道はこの「スタンスの取り方」を間違えてはいないか?

……と前回の記事で語ったつもりなのだが……もりくち氏みたいにうまく語れない。
>「鉄道むすめ」と「萌え」で誘客活動をしている三陸鉄道の不思議。
http://d.hatena.ne.jp/katamachi/20090918/p1

普代村役場正面ホールに掲げられた「久慈ありすの特大タペストリー」が、「村長の一声」で制作された、という事実

開業25周年ポスターの「久慈ありす」は、北リアス線堀内駅ホームが背景となっています。
堀内駅は、下閉伊郡普代村に所在しています。
その普代村役場の正面ホールに、久慈ありすの特大タペストリーが掲げられました。

「久慈ありす特大タペストリー」三陸鉄道ブログ「鉄ログ」2009年9月8日付)

タペストリーの横にあるタイル壁画と比べてみれば、たぶんその大きさは分かると思う。ところが、これが「村長の一声で制作が決まった」という。もしかして、今とりあえず人気がある「久慈ありす」にあやかって村おこししたい、三陸鉄道を県外からの利用客向けに売り込みたい、という皮算用が村長の胸のうちにあったのではないか……と私は考えた。前回の記事で「もしかして本気で乗客獲得を二人のキャラクターに託しているのでは」と書いた理由はそれ。それとも、思いつきでこんなことが出来るほど普代村は財政面で豊かなのか?
データを示しながらの話なので長くなる。しばらくお付き合いの程をm(_ _)m。

「マイレール意識の醸成」に「久慈ありすのイラスト」が一役買う、のか?

三陸鉄道では、開業25周年を記念し、「写真コンテスト」と「久慈ありすイラスト大募集」を行いました。
このたび、開業25周年を広く沿岸地域の方々に知って頂き、皆様が写真やイラストをご覧になることで、マイレール意識の醸成と三陸鉄道に対する親しみを持っていただくために開催いたします。

「写真コンテスト」「鉄道むすめキャラクター久慈ありすイラスト大募集」入賞作品展示会」三陸鉄道プレスリリース2009年5月22日掲載)

「マイレール意識」と「三陸鉄道に対する親しみ」は、「借り物キャラ」である久慈ありすのイラストで果たして沿線住民に芽生えるのか? もっと違う形で行政側は利用するよう訴えるべきでは……と思ったが、何か引っかかる。

少なくとも、久慈市がバス事業者に運行を委託するコミュニティーバスは、タクシーを使うよりは当然安いが、肝心の本数がない。

沿線自治体が絡む「コミュニティーバス」が三陸鉄道の各駅発着、もしくは経由として運行されているのでは、と考えた。調べて見ると久慈市のケースが分かった。あるじゃないか。まずはリンク。
「のるねっとKUJI」運行路線図(運賃三角表及び運行ダイヤもPDF形式でダウンロード可能)
http://www.city.kuji.iwate.jp/cb/hpc/Article-212-6981.html
運賃はまぁこんなもんだよ。でも運転本数が少ない。運行地域を通るバス路線が他にあるのか? 侍浜北線(上桑畑〜下桑畑〜夏井駅前〜久慈駅)と侍浜南線(北野〜白前〜夏井駅前〜久慈駅)は曜日ごとの運行でしかも1日1往復。市内循環線も土日・休日は1便を除いてほぼ運休……。誰もこの事について指摘しないのか? いいのか現状のままで?

沿線住民に対するアンケートの回収率、たったの32.3%。

そもそもこんな「イベント列車」ばかりの鉄道会社を、沿線住民はどう思っているのか。それが分かるのが「沿線住民へのアンケート」。「三陸鉄道沿線等地域公共交通活性化総合連携計画」には、その策定に際し駅から約2キロ圏内の世帯に対してアンケート調査を行った、と書いてある。連携計画そのものは以下のリンクからダウンロードできる。
http://www.pref.iwate.jp/view.rbz?nd=2685&of=1&ik=1&pnp=53&pnp=2685&cd=18250
連携計画の内容そのものに対する指摘は既にもりくち氏が行っており、私ごときがあれこれ言っても付け足しにもならない。私が指摘するところは計画書の内容ではない。
それは「計画の概要」編に記載されたアンケート回収率。配布世帯は2223世帯、しかし回収できたのは719世帯。回収率は何と32.3%しかない。サンプル数はたったの1707サンプルだ。これを計画に反映させようとしても、住民の大多数の意見ではないから反映のさせようがない。もりくち氏は「1ヶ月に数回、1週間に数回利用する、と答えた地元住民、例えば出張客や病院へ通う人々などへのフォローが足りなかったのでは」と言っておられるが、それを指摘する「以前」の話。
回収の方法が一部自治体を除き郵送による配布、郵送による回収だったから低かったのかもしれない。しかしそれを差し引いても、今住んでいる地域を通る鉄道路線に対する意識調査で、この数字はないだろう、と。

「自動車依存」という沿線住民の意識が変わらない限り、三陸鉄道や沿線自治体の協議会が何をしても無駄に終わる。

アンケート結果P.26「長距離利用する時の交通手段」の結果を見て驚いた。郊外から中心部へ移動する程度の距離(5km程度)で「自動車」と答えた人が86%。今回の調査は駅から半径2km圏内の世帯に配っているそうだ。この結果だと、確かに駅周辺の住民でも利用が少ないだろうことは容易に想像がつく。
さらにアンケートを読み進める。普段の利用頻度は「ほとんど利用しない・全く利用しない」が圧倒的(合計73.3%)。そして「利用しない理由」のトップが「自家用車の方が便利」(33.2%)、続いて「利用する目的(機会・用事)がない」(31.6%)。「ダイヤが不便」と答えたのは7.1%というデータが示されている。しかし一方で「三陸鉄道への不満点」では「ダイヤが不便」が17.3%とトップ。それに「運賃」(15.1%)、「バスとの乗継」(14.0%)、「駅が使いにくい」(12.8%)。それでいて最後に「三陸鉄道の必要性」について設問したところ、実に74.4%もの回答者が「必要」と答えた。三陸鉄道の「ダイヤが不便」で「自家用車の方が便利」だから車、あるいは原付バイクを利用するのだろう? ならば三陸鉄道という存在は「必要」ないのではないか。バスに置き換えてもいいのだろう?
もっと分かりやすいのはP.30「三陸鉄道の行っている取り組みを知っているか、また知っているもののうち評価するのは何か」という設問。トップは「企画列車」(認知度32.6%、評価する35.7%)。一方、「赤字せんべいやほやの燻製、久慈ありすグッズなどの物産販売」は認知度20.5%、「評価する」が19.6%。有効回答を寄せた人の5人に4人は「久慈ありす、何それ」なわけだ。ならば言えばいいじゃないか、「借り物キャラ」ではいやだ、って。無駄な金使うな、って。


三陸鉄道オリジナルのイメージキャラクターがほしい、というなら知事に陳情をかければいい。駅へ接続するバスが足りないなら「利用してみたけど不便だ」って言えばいい。施設の老朽化が目立つのが嫌なら、そっちへ優先的に税金を回せ、って言えばいい。そして運転本数が足りないなら「利用するから増やせ」と言えばいい。ところが調べている限り、住民からの「積極的な関与」はあまり見られない。そして相変わらず観光客が落としていく「運賃」の方が地元住民の落とす方よりも多い。そりゃあおみゃぁさん、沿線住民向けの商売がなりたたんだもん、観光客相手の商売をやりだすにきまっとるがや。

何か分かる気がする。何とか「知名度上げたい」ってその努力だけは。

で、最初の「普代村役場に掲げられた久慈ありすの特大タペストリー」の話。何かしないと三陸鉄道廃線→支援した自治体の長としての責任問題……と考えると、必死になる理由が理解できないでもない。そりゃこの手を使いたくなるわ。でも沿線住民が利用するように仕向けないと残せないよ、沿線自治体のお偉いさん方。


かなり長い話をして、おまけに何度も追記訂正する羽目になってしまった。もうこれで終わり。最後に、当初は別立てにしていた部分、達増(たっそ)岩手県知事が課長クラス以上の職員の前で話した講話へのリンクを示しておく。一読されたし。恐らく知事は三陸鉄道の経営について危機感を今も抱いていると思う。
〜平成19年度 知事講話「危機と改革」:http://www.pref.iwate.jp/view.rbz?nd=2608&of=1&ik=1&pnp=16&pnp=2608&cd=5723


そういえば以前に南東北を巡った際、仙台市内で久慈市内の小学校から来ているという遠足の一団と出会ったなぁ。引率の先生が「バスと電車を乗り継いで来た」って言っておられた。たぶん三陸鉄道の運賃補助制度を使ったんだろう。しかし先程のアンケート調査の結果を見ると、「マイレール30万人運動」の認知度は16.6%だという。以前からこの運動は続けていたはずだから、パーセンテージがこの低さでは話にならない。如何に沿線住民の多くが「三陸鉄道」そのものに関心を寄せていないかがよく分かる。このままだと、「三陸鉄道」に乗車した子供たちの思い出は廃線と共に藪の中へ……。