テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

日経朝刊第一面に出ていた「バス・電車 地方にリース」に、4つの疑問点(前編)

 国土交通省は2015年をめどに、地方のバスや鉄道会社に車両を貸し出す仕組みをつくる。地域単位で自治体や金融機関と共同出資会社を設立。高齢者らが乗り降りしやすい新型の車両を調達してリースする。地方の交通会社は利用者の減少で経営が悪化し、車両を更新できない例が目立ってきたため、従来よりも踏み込んだ支援策が必要と判断した。
(「バス・電車 地方にリース 国交省自治体と共同会社 公共交通維持へ企業を支援」日本経済新聞2014年9月21日付朝刊第一面)
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDF20007_Q4A920C1MM8000/?n_cid=BPRDS001

先日、通勤する途中でたまたまコンビニに立ち寄ったら、スタンドに挿してあった日経朝刊の一面にこんな記事が見えていて、思わずその場で買ってしまいました。電子版記事の続きは会員以外読めないのであれなんだけど、要は

  1. 国と地方自治体や地域金融機関との共同出資により、特別目的会社(以降、SPC)を設立する。
  2. SPCは車両メーカーに対し車両を発注し、車両メーカーは車両をSPCに納入する。
  3. SPCは交通事業者に対して、自社保有の車両をリース契約により貸し出し、交通事業者はSPCに対してリース料を支払う。
  4. SPCは交通事業者に対して、貸し出した車両を10年から15年を目処に売却し、交通事業者はSPCに対して残存簿価相当額を支払う。
  5. SPCへの資金供給について、国は財政投融資機関(記事中では「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」)を経由して行い、財政投融資機関から「国庫納付金」として(利益を)受け取る。

という制度を作るらしいのです。基礎知識については公益社団法人日本リース事業協会*1の「リースのご案内」に載ってるので、ここでは詳しくは語りません。この仕組み、車両リース契約の実例を少し調べていくうちに、だんだん嫌な予感しかしてこなくなりました。その理由をこれから9月23日付「前編」として2つ、9月24日付「後編」で2つ、計4つ挙げます。これを読んで、ちょっとでも地元の鉄道やバスなど公共交通事業の「経営状況」に興味を持っていただければ幸いです。

後編へのリンク:http://d.hatena.ne.jp/tetsumogura/20140924/

1.「リース契約」は実は諸刃の剣

「リース契約」とは「借主が一定期間にわたって定額のリース料を支払う代わりに、借主に代わってリース会社が機材を購入し、当該機材を借主に貸し出す」契約のことです。この「リース契約」には大きく分けて「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の二種類があるのだけれど、まぁその辺は暇な時にでもちょっと調べてみて下さい。ここで一番重要な点は、「リースはメリットとデメリットの両方を同程度抱える」ということです。

  • リース契約のメリット
    • 定額のリース料によりコストの把握が容易になる。
    • リース品にかかる固定資産税等諸税支払いや減価償却処理はリース会社が行うので、煩雑な事務処理が簡素化される。
    • リース料はその時の簿価で計算するので、再リース契約や中古品リースの場合は減価償却によりリース料が下がる。
    • リース契約は事実上リース品取得金額の100%相当額融資になる。
  • リース契約のデメリット
    • 貸し出された機材の所有権はリース会社にあり、資産確保による信用力を得られない。
    • ファイナンスリース」は原則として中途解約できず(ノン・キャンセラブル)、リース料全額を払わなければならない(フル・ペイアウト)。
    • リース会社の事務手数料が上乗せされるため、支払い総額が直接購入する場合よりも割高になることがある(特にファイナンスリースの場合)。

リース契約では、リースされた物品の所有権は借主ではなくリース会社にあります。もし金融機関から借り入れをしようとした際、リース品は自社の所有ではないので担保にする事が出来ません。またリース期間設定を適切に設定しないと、途中で不要になってもリース料だけは払い続けなければならない、という事態にもなりかねないのです。
しかも今回国土交通省が作る仕組みは「リース料を一定期間支払った後、簿価相当額で買取」ですから、リース料の設定如何では直接購入するよりも遥かに高額となることが明らかです。「今」金がないところが、借りた車両を10年後とか15年後とかに買い取れるのでしょうか?

2.航空路線ならまだしも、バス会社や鉄軌道会社との「リース契約」は日本国内での実例が少なすぎる

リース契約自体は日本でも事例が数多く存在します。交通事業者だと航空業界における機体のリース契約は半ば常識と言ってもいいくらいです。航空機の調達価格は一機辺り数十億円と高価な上、自社で購入してしまうと需要がなくなった際に機体が余剰となってしまうからです。国内では2012年にジェットスター・ジャパンエアバス社製A320機計24機を投入する際、リース会社5社と機材リース契約を交わしています*2。リース期間終了後は機体をリース会社に返せばいいリース契約は、特に会計上の固定資産部分を圧縮したい格安航空会社にとってはなくてはならないものでしょう。
ところが路線バスや高速バス、鉄軌道車両となると、日本国内における例があまりありません。海外では鉄道車両のリース例が数多く、特にアメリカにおける長大貨物列車は、自社で機関車や貨車を保有すると莫大な額になるので、車両リース会社からリース契約で借りるケースが殆どなんだそうです。あるいは報道されていないだけなのかもしれませんが……。ウィキペディアにも載るものとしてはまぁこんなところ。

いずれも「大手交通事業者」であることに気をつけないといけません。地方の中小交通事業者は備品をリースすることはあっても、「車両のリース」はやった事がないと思います。車両をリース契約で借りるメリットとデメリットはなんなのか? リース契約の際にやるべきことはなんなのか? 果たして制度を全部理解できるんでしょうか? この制度を本格的に始めるなら、国土交通省は各地で説明会を開いて、各交通事業者担当者や沿線自治体関係者にきちんと説明していかないといけない。パンフレットを制作して「はいこれ読んで」、だなんて投げやりな対応は今回は絶対に許されません。
でも絶対やるだろうな、お役所仕事だから。


これだけでも不安要素多数なのですが、まだ不安要素はあります。後編(9月24日付)に続きます。
後編へのリンク:http://d.hatena.ne.jp/tetsumogura/20140924/