テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

あおなみ線を開通させた理由とは一体なんだったのか?

7月7日付記事の続き。
前回:id:tetsumogura:20100707
以前「あおなみ線、10年後に(?)157億円の資金不足?」という記事を書いた。愛・地球縛の関連イベントである「デ・ラ・ファンタジア」が終わったら、乗客数が減るのは明らかだから……と記述した。イベントの来場者はあてにできないのだから、沿線の住民に乗ってもらえるように何かしないとだめなのだ。そしてそれがまったくできていないんです、あおなみ線って。

あおなみ線沿線住民の6割以上が毎日利用する、と想定したとは。

まず考えるのは、沿線にどのくらいの人が住んでいるのかという点。その路線を利用するのは主に沿線に住む人だからだ。そこで今回は小学校の通学区域、すなわちどの学区をあおなみ線が通っているかを考えてみた。名古屋市公式サイトの「統計なごやWeb版」には、毎月1日現在の学区別世帯数と人口の調査結果が公開されている。今回は2010年6月1日現在のデータを使った。

各学区にある小学校の位置とあおなみ線の路線を地図で比べた結果、中川区常盤・昭和橋・中島・西中島各学区、港区成章・正保・明徳・当知・小碓・港西・稲永及び野跡各学区があおなみ線開通により恩恵を受けそうだと予想できる。いずれも付近に鉄道の駅はなく、あおなみ線開通前はバス路線しか公共交通機関が通っていなかったところだ。港区神宮寺学区はあおなみ線荒子川公園駅稲永駅よりも遠く、中川区愛知学区については近鉄黄金駅が、同区荒子学区は地下鉄東山線高畑駅が既に最寄り駅として存在するので外した。
前述学区別人口統計表から上記12学区の人口を合計すると10万6396人。前回引用した毎日新聞の記事によれば、1日平均の利用者は約2万7000人だという。これは12学区の全人口の実に25.38%しか利用していないということになる。しかし一方であおなみ線の開通時想定利用者数は6万6千人。12学区の全住民の約62%が毎日利用すると試算していたのだ。高齢者から乳幼児まで含めて、沿線住民の6割以上が利用するなんて、いくら何でもそれは楽観的すぎる。沿線12学区の人口の約3割(3万2千人)か、多くても4割を少し超えるくらい(4万3000人)じゃないのかなぁ。
実際に計算してみて、まさかこんな楽観的な数字でこの鉄道線を開通させていたとは思わなかった。「乗客数の見通しの甘さ」というのは以前から新聞などで指摘されていたけれど、それはやっぱり的を得ていたんだな。

あおなみ線を開通させたところで、国道1号線国道23号線などの渋滞は緩和されない。

あおなみ線の沿線となる名古屋西南部地域は、これまで鉄道サービスが不十分で、自動車やバスなどの路面交通により移動せざるを得ず、交通渋滞が著しい地域でした。このため、地理的に都心域から至近にあたるにもかかわらず未だ市街化の熟度が低い地域でもありました。また、笹島地区、八田・高畑地区の拠点的開発整備、稲永地区の大規模住宅等の開発整備などが進められており、これらに対応した鉄道整備が強く求められていました。

「事業計画の背景と目的」あおなみ線公式サイトより

公式サイトの「事業計画の背景と目的」にはそう書いてある。確かに名古屋市西南部、特に国道1号・国道23号及びその間にある県道59号線は朝夕の通勤・帰宅時間帯になると必ず渋滞が起きる。ラジオの交通情報を聞いていると、毎回国道1号一色大橋とか県道59号線南陽中学校前交差点とか国道23号庄内新川橋あたりは、必ず「流れが悪くなっています」とか「渋滞しています」とか言われる。でもこれらの国道や県道が渋滞する理由は、庄内川もしくは新川を境に車線が減ってしまう*1のと、それらの道路が物流会社のトラックヤードや大規模な工場、製鋼所などが立ち並ぶ地域を横断しているからです。右左折時に速度が出せない大型トラックやトレーラーが出入りするので、交差点の通過に時間がかかり、余計に混むんです。それを緩和するのにあおなみ線を開通させたところで、何の意味もない。
もし緩和しようと思うなら、あら子川公園駅辺りから分岐させて新川及び庄内川を超え、南陽地区にまで鉄道線を敷くしかない。しかし沿線になると思われる南陽・西福田・福田各学区の住民人口は合計で2万4054人。現状の乗車率から計算すると1日平均で約6100人の乗車しか見込めず、恐らく赤字路線(赤字区間)になるだろうことは十分予想できます。ちなみに、港区役所バス停から県道59号線を経由し、南陽中学校方面へ向かう市バス「東海12」系統の営業係数が126、港区役所バス停から東海橋バス停・競馬場バス停・本宮町バス停とぐるりと遠回りし、荒子川公園駅を経由して両茶橋バス停へ行く「東海11」系統が215と、いずれも赤字路線と化しています。

あおなみ線」開通の目的は、「沿線の再開発」ですか?

西名古屋港貨物線の旅客路線化は平成4年の運輸審議会答申12号で、「平成20年までに整備することが望ましい」、いわゆるA路線と位置づけられている。けれど同じくA路線として位置づけられた現・市営地下鉄上飯田連絡線の「平安通〜新栄町〜丸田町」延伸、及び市交通局東部線「笹島〜丸田町〜吹上〜星が丘〜高針橋」間は、未だに路線の基本ルート案すら公開されていない。
じゃあ何が目的かというと恐らく……これまた推測なんだけれど、上記「あおなみ線公式サイト」からの引用部分の後半、「笹島地区、八田・高畑地区及び稲永地区の再整備計画」じゃないのかな、と。

(いずれも名古屋都市センター公式サイトより)
八田・高畑地区の住宅整備事業は平成4年に国鉄清算事業団用地の土地利用計画が作成され、汐止地区の住宅整備事業はそれよりも前、昭和63年に基本計画が策定されている。ここら辺の住宅整備事業が怪しいんですよね。思うに、八田・高畑地区及び汐止地区の住宅整備計画に加え、愛・地球博愛知万博)のサテライト会場を通るということで、そのアクセス路線に関連付ける形で運輸政策審議会にごり押ししたんじゃないかなと。でも乗ってくれなきゃ開通させた意味がない。計画段階で通過予定地域の住民全員に意識調査をしたのだろうか。

あおなみ線はしばらく赤字続きになりそうな気がする。


あおなみ線の沿線には、鉄道を利用してでも常時人が来るような、そういう魅力的な施設がない。金城埠頭駅付近ではようやくJR東海鉄道博物館が着工したものの、それ以外に常時人が呼べるような施設は何もない*2。一方、愛・地球博サテライト会場「デ・ラ・ファンタジア」が置かれた「ささしまライブ24」地区については2010年7月現在、開業しているのはシネコンなどが入る複合アミューズメント施設「ラ・バーモささしま」とライブホール「Zepp Nagoya」、そしてJICA中部国際センターだけだ。しかも次に竣工する予定の愛知大学新キャンパス、大規模オフィスビル共に計画の下方修正が行われている。

荒子川公園駅に近い複合施設「ベイシティ」も、稲永駅近くのホームセンターも、敷地内に大規模な駐車場を持ち、あおなみ線を利用して来る客は少数と言わざるを得ない。ならば集客の対象は沿線住民とすべきなのだが、沿線住民の利用が少なすぎる。そもそもこれは誰が、誰のために、どういう議論を経て作ったのか、いい加減はっきりさせるべきじゃないのかな。
それとも私が単にこの手の問題について「鈍感」なだけ?

*1:架け替え工事中の国道1号一色大橋の場合、名古屋市内から行くと2車線から1車線に減る。

*2:フットサル専用コートを持つ「オーシャンアリーナ」は、年間の試合数からみて常時集客できるとは言いがたい。ファンには申し訳ないけれど。