テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

「あおなみ線にSL」じゃないよと言いたい三つの理由

名古屋市が運行を検討しているSL「C56」=JR西日本提供  名古屋市などが出資する名古屋臨海高速鉄道あおなみ線」(名古屋−金城ふ頭、全長15.2キロ)の一部区間で、同市が12年度に蒸気機関車(SL)を試験運行させる方向で最終調整に入った。12年度当初予算案に関連経費数千万円を盛り込む。JR西日本から「C56」か「C57」の機関車を借り入れ、機関士、整備士も派遣してもらう方針だ。
名古屋臨海高速鉄道:SL試験運行へ - 毎日jp(毎日新聞) 名古屋臨海高速鉄道:SL試験運行へ - 毎日jp(毎日新聞)

リニア鉄道博物館の開館記念式典で河村たかし名古屋市長が、「あおなみ線を鉄道の聖地に」なんて発言をしていた。私はあれはリップサービスと受け取っていたけれど、どうやら本気だった様子。しかしSLでいいのか、本当に?

「SLじゃない」と言いたい理由その1:ホームドアの扱い

上記の試験運行区間は、高架部分の耐久性を考慮した結果、JR貨物のディーゼル車も通る「名古屋〜中島」間で決定している。列車が走るのに一番重大なのは走行性能と列車保安装置(簡単に言うと、列車をいかなる状況下でも確実に停止させる装置)の整合性、及び整備上の問題だ。このうち走行性能に関しては、今回借り受けるとされるC56形160号機は過去に武豊線東海道本線の一部区間で運行された実績があり(1986年の「愛知の鉄道100年フェア」で)、JR貨物の機関車等も走るあおなみ線での運行に問題はなさそうだ。保安装置に関してもJR東海JR西日本も、そして名古屋臨海高速鉄道もATS−Pベースのものだから、蒸気機関車自体の走行には大きな障害は発生しないだろう。SLの整備に関しても今回は整備士を借り受けるとのことで何とかなりそうだ。常時運転となるとそれなりの設備が必要だが、そうなった場合はあの河村市長のことだ、JR東海に「SLを調達してちょ」なんて言うのかもしれない。
むしろ問題なのは駅の可動柵だ。SLのみならいい。しかし現在SL列車で使用されている国鉄時代製造の客車を牽引して走らせるとなると、可動柵と客車の扉の枚数が整合しない可能性が高い。少なくとも12系客車は2枚扉だ。可動柵を選択して開閉できるならいいが、そうでなければ乗車できない柵を何らかの形で一時的に閉鎖するか、開放された柵の前に警備員を置くしかない。当然その分だけ余計に経費はかかる。
あるいはそれ以前に扉の位置が合わない、なんて可能性もなくはないが……それはないか。

「SLじゃない」と言いたい理由その2:採算性の問題

更に肝心な点、採算性の問題というのがある。今回の試験運行で数千万円が市の予算に盛り込まれるという。しかしそれは今回借り受けるとされるC56形160号機と整備士や運転士の「レンタル費用」である。今後「列車」として運転する場合、これに更に「客車」と「車掌」及び「車内乗務員」を確保しなければならない。ワンマン運転が基本となるあおなみ線において専属の車掌はいないはずである。車掌はどこから派遣してもらうのか。試験運行にかかる経費だけで数千万なのに、これ以上に経費はかかるというわけ。
経費の面から見ると、今回の走行距離は短すぎる。10キロもない区間で運行しようとなると、どう考えても経費は一キロ当たり数百万円単位に及ぶ。それを回収するため運賃以外に料金を客から徴収したとしても、SL列車を運行する他の路線での事例を見る限り、千円程度ぐらいしか取れない。現実的には他と同様、沿線自治体が運行補助金としていくらかの費用を負担することになるだろう。が、あおなみ線の場合は名古屋市内だけが対象で負担は名古屋市だけにかかる。名古屋市単独で運行経費をまかなうことは出来るのか。
実際には長距離を運行させることになるだろうな。例えば京都発着とか。

「SLじゃない」と言いたい理由その3:JR東海は「トレイン117」を持っているのに

そもそもなぜSL? SLでなくてもよかった。
あおなみ線は全線が高架区間である。特に野跡駅金城ふ頭駅間は地平面からかなりの高さの場所を列車が通る。よく考えてみれば名古屋港湾地区を高い場所から眺めるわけで、風光明媚とはいかずとも見える景色はかなりいいはずである。そしてそんな風景を窓越しではなく、直接見せる方法があった。私が「SLじゃない」とする最大の理由はそれを実現する方法があるからだ。それは「トレイン117」である。
同列車は117系ベースの観光列車で、中間車両が「ウィンディスペース」として、ドアが取り払われた展望車両になっている。この列車は実は過去に何度も「大垣−名古屋」間を走行していて、同じATS−PT型を採用するあおなみ線で走行することは可能のはずだ。一輌あたりの車両重量はSLよりも確実に軽いはずで、高架構造物の耐久性から無理だった金城ふ頭駅までの走行もトレイン117なら可能性が高まる。そして何よりも、この車両はJR東海所有の車両である。運行費用の一部を負担するといえば、自社所有の車両をまさか貸さないとは言わないだろう。
常駐している豊橋駅豊橋運輸区)からあおなみ線名古屋駅に持ってくる方法とか、編成全体での重量とか、運転士の慣熟運転とか可動式ホーム柵の問題とか、トレイン117を運行する際にもSL列車同様にいろいろ問題は浮上してくる。しかしSLよりも列車としての実現性は高い。きっと高いはず。
まぁ、ほとんど妄想ネタに近いが、先頃定期運用から外れた371系を持ってくるというのもある。


こだわるのはいい。空想はいくらぶち上げても構わない。しかし現実問題としてやれることには限りがある。
あおなみ線存続のためにやるべきは、まずは普段の乗客を増やすことである。そのためには何をすればいいか。本当にSLなのか。SL以外に集客の手段はないのか。フリーきっぷという手は? イベントは? 今後市議会でまたいろいろ議論が出そうな気がする……と締めくくって、本日付の日記は終わり。
ところで先日、138タワーの非常階段を上るというイベントに参加してきました。いやはや……上る途中で高さに対する恐怖は薄れてきたのだけれど、その代わり思いっきり汗掻きました。太ったなぁ自分。