テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

旧中央西線のトンネル群を懐中電灯一つ持たずに歩いてみた。

中日新聞に「旧中央西線廃線跡の特別公開がある」という記事が載った。11月12日から11月23日までだと記事にはあり、雨天中止と書いてあった。21日は晴れとの予報だが、22日は両日とも曇時々(のち?)雨。23日は仕事で行けない。チャンスは一度きり……そう考えて準備を整え、中央西線定光寺駅へ向かった。
乗ってきた普通列車定光寺駅に到着。ホームに降り立つとほとんどの人がこの駅で降りている。駅員の指示に従い、列車の通過を待ってから歩き出した。嫌な予感が頭の中をよぎる。階段を下りていくとものすごい混雑だった。そして駅入り口の乗車券投入箱に乗車券を入れ、外へ出たらこんな調子だった。

同じ事考えた人が多かったってことか。後に公式サイトをチェックしたら速報値5200名。そんだけだったか、おい?
ほんと、待っている時間がやたら長かった。しかもおまけに中央西線旧ホーム跡の裏側に、スズメバチが巣を2つも作ってるし……。まぁ、でも並んでまで見る価値はあった。ヘッドランプを持って来ればもっと……中日新聞の、ばかやろーっ! 事実は正確に書きやがれ!

公開されたトンネル4つ全部を照明なしで歩くのは、やはり無謀だった。

1時間10分も並ぶことになった理由は、この廃線跡に入るための階段が、人一人しか通れない狭い幅のものしか架けてないからだった。入ってしまえば混雑なんてほとんどなく、十分各所で撮影するだけの余裕があった。後で述べるが、正式にここが整備され始めたのが2年前、しかも整備したのは行政ではなくNPO法人。今回公開するためにこの階段を取り付けた、とのこと。

さて、今回公開されたトンネル、内部はどうなっていたかというとこんな感じである。画像は3号・玉野第三トンネル。

強制的にフラッシュを焚いた。そうしなければならなかったほど内部は真っ暗だったのだ。照明が配置されていたのは5号・隠山第一トンネルの、それもミニコンサートが行われていたところだけで、それ以外に明かりは全くない。一応、6号・隠山第二トンネルは曲線区間に作られていたんで、それを示すためにろうそくが点されていた。けれど中を照らし出すほどにはもちろんならず。6号トンネルを通った先の行き止まり地点にNPOのメンバーがいて、話を聞いたら朝日新聞の記事には「懐中電灯必須」と書いてあった、とのこと。ここまで扱いが違うのかとぼやいていたのを覚えている。
いや、照明が何もなかったわけじゃない。実は、6号トンネルには「古い掛時計のムーブメントを再利用した太陽追尾式照明装置」が設置されていて、これが機能すれば6号トンネルの内部は入り口から半分程度まで少しは明るくなるはずだったんだそうだ。ところがこれがなぜか故障して機能せず。帰り際、NPOのメンバーが直しておられるのを見たが、22日には機能していたのかなぁ。ちょっと心配。

今後調査が進めば、とんでもない遺産が発見される可能性は高い。

今回開放されたエリア内はまだ全廃線跡の一部。今後調査が進めばとんでもないものが出てくる可能性は高い。今回の公開区間でも鉄道遺産やかなりの樹齢を誇る樹木を多く見ることが出来たからだ。鉄道遺産だと例えば信号及び継電器の設置跡とか。

6号トンネルのポータルはある意味ものすごいものがある。その春日井口の下は1.5mまで掘り下げられ、環状インバートの一部を見ることが出来た。後で埋め戻すんだろうな。


帰りは玉野古道跡と思われる側道を歩いたのだが、途中にトンネル内部からの湧水を流すための排水路があった。ここまでNPOメンバーの手により整備済みである。

樹木もまた多種多様な種類が生い茂っていた。4号トンネルを過ぎた先にはもみじの巨木があった。樹齢100年以上と推定され、切り株から芽を出した「株立ち」の可能性がある、とのこと。

だがそれら以上にすごかったのが、樹齢250年以上と思われるエノキ、「山おやじの大エノキ」だった。この木も何とか保存したい、とメンバーの一人が言っておられたが、春日井市指定文化財に登録しても5000円しかもらえないのだとか。ネーミングライツを公募してうんぬんという話を聞いたが、実現可能かそれ?

春日井地内1.5キロ・5万坪を買い取り再生させるのに、1500万円必要です。

この特別公開イベントの主催は、この旧中央西線トンネル群の保存運動を行っているNPO法人、愛岐トンネル群保存再生委員会である。同団体が当日会場で配布していたチラシによれば、

  • 明治33年に開通し、昭和41年(1966年)に新線に付け替えられるまで実際に使われていた。その後放置されている間に樹木が生い茂り、日本でも稀と思われる鉄道遺産と自然の共存するエリアになった。
  • 2年前、この廃線跡を保存・活用することを目的として、愛岐トンネル群保存再生委員会が発足した。2009年8月13日付で同委員会は特定非営利活動法人として、法務局への登録を完了している。
  • 愛岐トンネル群保存再生委員会が調査した結果、全13基*1のうち、1号から6号までと13号及び14号各トンネルが確認された。確認されたもののうち、3号から6号までがメンバーの手により公開できる状態に整備されている。今回公開されたのもそれらのトンネル群。
  • この土地は民間企業が所有するため、このままでは十分に整備できない。まずは1500万円を目標に募金を集め、その資金でこの土地を買い取る。その上で市民と協力して整備を行い、将来的には自治体に無償譲渡して、行政と協働でこの廃線跡を維持管理していく……一応そういうスケジュール案を持っている(「あくまでも予測案」という但し書き付きだが)。

民間企業の所有地、資金がない……照明が付けられない理由はそこか。まぁそれにしてもだ。またまたとんでもない構想が出てきたな、と思った。「買い取るという約束は一応取り付けてはいます」と本部にいたNPOメンバーの一人から聞いた。そういう話が進んでいるんだったら、資金が貯まれば譲渡契約交わして、っていうニュースがそのうち出るとは思う。問題はその資金がいつ貯まるか、なんだよな。
いくら約束を交わしたとはいえ、そう長いこと待ってくれるわけではないだろう。10月28日現在、公式サイトで発表された速報値で募金総額は1824900円だそうで、予定金額の一割を超えたくらいだ。これが10年かかっても貯まらないなんて話になると、しびれ切らして土地の保有者から「1500万では売れません」なんて言われるかも。かといって、今更春日井市に泣きついてもなかなか首を縦には振らないと思う。ていうか、首を振らないからこういうことをしたんだろうな。
ただ、この土地が同委員会以外に転売される可能性はかなり低いと思う。何しろここは庄内川を挟んで向かい側がもう瀬戸市の山林地帯、現在の愛岐トンネルを半分強過ぎればそこは岐阜県多治見市、という郊外の超閑散地域。しかも土地の幅は「道路整備」か「遊歩道の整備」以外には使えないと思えるほど狭い。

ちなみにこの庄内川河川敷、今回の公開コース外です……。

果たして全国規模でこの委員会の取り組みをどれだけの人に知ってもらえるか、そこが今後の課題。

そもそも、ナショナル・トラスト運動自体が日本ではあまり知られていない。大井川鉄道の保存SL列車ですら、活動報告は鉄道雑誌と公式サイトぐらいにしか出ていない。白川郷合掌造り集落の家屋や東京都文京区の旧安田楠雄邸庭園、あるいは火災により失われた藤沢市旧モーガン邸は、この運動を進める財団法人日本ナショナル・トラスト保有資産なんだが、旧モーガン邸の火災で初めて「ナショナル・トラスト」を知った人は結構いると思う。そんな状況なんで、果たしてこの「旧中央西線廃線跡保存運動」がどのくらいの人に知ってもらえるか、そこが今後の課題だと私は思う。せめて来年の10月末の報告で「750万円貯まりました」って話が出ないといろんな意味でつらいぞ。
と、ここまで散々言うだけ言ってみたけれど、言った本人がこの運動に何一つ参加していないんでは逆に後ろ指差されるだけ。ていうか、こりゃあ一口ぐらいは絡んでも損ではなかろうと思ったんで、募金できる振込用紙を現地でもらってきた。来月の給料から1000円だけだが寄付しておこうと思う。
けれどそれ以前に、これはJR東海にみんなで抗議すべきじゃないのかね? 「リニアなんぞ後回しでいい、これにこそ金使え」ってw。


最後に、同委員会の公式サイトURLを下に掲示しておく。興味のある方は一読を。
「愛岐トンネル群保存再生委員会」
http://www.geocities.co.jp/ag_tunnel/index.htm

*1:建設時は14基、9号(諏訪第三?)トンネルは昭和15年に廃止。