テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

「たるや竹十」西北商店代表は本当の「職人」だった。

前回の日記(「http://d.hatena.ne.jp/tetsumogura/20120917」)で、日本盛本社において1日限定で開かれた「盛Bar」に行ってきたという話をした。今回は2日目、沢の鶴資料館の隣にある樽製造店の職人を紹介したい。

西郷の沢の鶴資料館へ歩きでいく人は大抵、沢の鶴資料館から沢の鶴ミュージアムショップに向かうだろう。そのミュージアムショップを出て道路の向こう側を見ると、木樽が軒先に置かれている古い木造の建物がある。入り口横には「西北商店」と書かれた木の看板がかかっている。本当に古い建物だ。

西北商店公式サイト:http://www.taruya.com/index.html

この日はその向こうで作業をしておられる方がいて、そして店の前ではそれ相応の歳の方がサイクリングウェアに身を包み、年季の入ったロードバイクの整備をしていた。ところが店の前におられた方に声をかけると「ちょっと樽を持ってきますね」と店の中へ引っ込み、新品の樽を一荷*1持ってきて私の前に置いたのだ。彼から渡された名刺を見て驚いてしまった。裏には英語で「YASHIMA NISHIKITA」、表には「西北商店 西北八島」。私はここに立ち寄ったただの客だと思い込んでいたが違う。この方こそ文政年間から続く樽製造店「西北商店」の代表、西北八島氏ご本人だったのである!

その姿は職人には見えなかったのだが、話をしていくうちに「この方は本当の職人だ」と分かった。
一つは、その仕事内容をきちんと説明していただけたことだ。樽の構造に始まり、一つの樽の製作を職人が板組みから仕上げまで一人で担当していること、竹製のたがにささくれやひびが入ると巻き直しになることなど……。シックハウス症候群など化学薬品アレルギーを持つ人からの注文が増えたから、それで竹釘を使って蓋を接合することにしたのだとも言っておられた。そこまで自分の仕事に責任を持ち、それでいて来た人には買わなくてもきっちり説明していく。それも今から気分転換にとサイクリングを始めようとした矢先にやってきた、ボンクラな男に対してである。常に「買って使っていただけるお客のために」という精神が彼の心の中にあることに気づいた。
もう一つは上記写真でご本人(の下半身)と共に撮影させていただいたロードバイクだ。帰宅してから下記画像を元にネットで調べた結果、イタリアにあった(あるいはある?)ガルラッティ製のロードバイク、Garlatti Ives Corsaと判明した。ご本人も「調べる限り、これを日本で持ってるのは三人ぐらい」と言っておられたのだけど、その話は本当だったようだ。検索サイトで調べても日本国内のサイトではほとんど名前がヒットしない。

しかし驚いたのは自転車そのものではない。それをご本人自ら乗れる状態にし、実際に目の前で乗って街へ繰り出していったことだ。海外のサイトでも「Vintage」の形容詞が付くロードバイクである。交換パーツもほとんどないだろう。それを調整して使いこなす。よほどその「道具」に愛着がなければそこまでしないだろう。「ではこれで」と言い残して颯爽と行ってしまったその後姿を見て、本当の職人とはこういう人を指すのだと思った。

しかし私はこの領域には入り込めない。そもそも自分の本当の得意分野は何なのか。「厚生労働省編一般職業適性検査」の結果表が、お前はそれどころの話ではないという現実を突きつけていた。この件に関してはもう一つのブログ、FC2の方で少しだけ……。

*1:日本辞典「物の数え方」(http://www.nihonjiten.com/nihongo/kazoekata/index.html)によれば、中身の入っていない樽は「一荷もしくは一駄」と数えるそうである。