テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

札幌市の観光振興が、初音ミクじゃなくてオリジナルのボーカロイドだったら……

 バーチャルアイドル初音ミク」のキャラクターをデザインした札幌市電の運行が11日始まり、同市中央区の電車事業所で出発セレモニーがあった。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110212k0000m040100000c.html

みくみく、みくみく、初音ミク。遂に札幌市交通局も2次元美少女キャラクターで乗客獲得か、と思ったらそんな簡単な話じゃなかった。クリプトン・フューチャー・メディアの本社が札幌市だったってこと、すっかり忘れてました。またもやカウンターパンチをもらって一発KO。しばらく立ち上がれませんでした。札幌市に完全にやられた。

「札幌=初音ミク」の関係付けは、現時点では正解。

上記のニュースだけ見た時は「何で初音ミク?」と思ったけれど、実は下敷きがあった。昨年12月にクリプトン・フューチャー・メディア社と札幌市が締結したシティプロモート連携協定だ。

 札幌市は2日、イメージキャラクターの仮想アイドルが国内外で人気を集める歌声合成ソフト「初音ミク」を開発した同市のIT関連企業「クリプトン・フューチャー・メディア」とPR活動に関する協定を調印した。
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/110108/ent11010823460266-n1.htm」(msn産経ニュース2010年12月2日付)

「雪ミク電車」の運行にはちゃんと理由があった。札幌市交通局の「単独策」とばかり思っていたら、札幌市そのものがもうクリプトン・フューチャー・メディア社と宣伝活動のための契約を結んでいたんです。
この「シティプロモート」、戦略会議が過去に二度開かれていて(この記事を書いている時点で)、昨年9月に開かれた第2回会議の席上で、出席者の誰が発言したのかは分からないけれど「プロモートには差別化が必要となる」という意見が出されていた。その「差別化」の一環として「Vocaloid」シリーズに目をつけたのは正解の一つだと私は考えます。「Vocaloid」の機関技術はヤマハが作ったけれど、「初音ミク」や「鏡音リン・レン」などは札幌市に本社を置くクリプトン・フューチャー・メディア社が送り出しましたからね。だから「札幌=初音ミク」のイメージ戦略を打つのは、現時点では正解。例によって、今後もその戦略が打てるかどうかは未知数だけれど。
でも……しばらくこのブームは持続するでしょう。2年や3年では終わらない。なぜならこのブームの原動力は「キャラクター」の人気そのものではないから。

Vocaloid」シリーズのブームの原動力は、「音声合成システム」を低予算で構築できること。

Vocaloid」シリーズのブームの原点は、今まで高い費用を払って構築しなければならなかった「音声合成システム」を、比較的安価な費用で構築できるようにした点にあります。パッケージに書かれたキャラクターイラストそのものがかわいいから、じゃないのです。キャラクターの人気は、あくまでも「Vocaloid」シリーズの人気があって、その後からついてきた形なのです。そこを間違えると「あれぇ」てな話になってしまう。
「2次元美少女キャラ」ブームとは全く違うパターンでのブームだということを、札幌市の担当者は全員理解しないといけない。「2次元美少女キャラ」の場合、原作(小説とかマンガとかアニメとか)があって、それらが元ネタとなってブームが作り出された。ブームの担い手はそれらの作品の「ファン」だけれど、彼らは残念ながら「創作者」ではなくて、あくまでも「受け手」だった。こっちは「創作者」の一翼を担える可能性がある。そこをうまく捉えて、例えば札幌市オリジナルの「Vocaloid」がシリーズに加わると「おおっ」てな話になるかもしれない。声優? いるじゃないですか、札幌市「出身」の声優が。松なんとかとかいう方とかネェ……無理?

「札幌=ジンギスカン雪まつりよさこいソーラン祭り」のイメージを変えることが出来るか?

この話は札幌市長自身の提案ではなかったようです。市長は上記新聞の記者に対して、
「(初音ミクは)にわかには理解できなかったが、世界中で愛されるキャラクター。活用法を考えたい」
というコメントを出しています。「にわかには理解できなかった」ということは、実は「初音ミク」とか「Vocaloid」シリーズとか、市の担当者から説明を受けるまでは何も分かっていなかったと思うんです。で、担当者から説明を受けた、「えっ、そんなに人気があるの」てな話になった。だから「とりあえず提携してキャラクターとか使わせてもらうか」という話になった。市長が自ら提案したら(ネタとして)面白かったんですけど、年食っておられますからね、気にもしていなかったのじゃないかな。
私の場合、「ミンキーモモ」に代表される「魔法少女(それも明らかなお子様キャラが主人公の)アニメ全盛時代」の中にいたし、その後の18禁美少女ゲームにも接している*1。そしてインターネットで「初音ミク」が何なのか、「Vocaloid」シリーズとは何なのか、情報を持っています。情報を持っているからこのブームも理解できる。しかし市長は何も情報を持っていない、過去に一切経験していないのです。だからどう扱っていいのか戸惑う。戸惑った挙句、最終的に全部否定してしまえば楽なのだけれど、それをやると札幌市のシティプロモート戦略は失敗に終わります。
今回の「雪ミク電車」、市長が「全否定」をしたら実現していなかった。「全否定」にならなかったのは札幌市にとっては幸いだったかもしれない。
いい機会ですよ。今まで「札幌」というと、「時計台」とか「ジンギスカン」とか「雪まつり」、あるいは「よさこいソーラン祭り」といった、「ガイドブック」に掲載されているものだけしかない、と思われていた。調べればまだあるはずなんです。「初音ミク」だけじゃない。実はネットでは少なくとも相当有名なサウンドクリエイター集団も札幌市に本拠を置いているのだけれど、札幌市の関係部署がそこと提携するかどうか。市長が「初音ミク」同様、受け入れるかどうか。本当の「シティプロモート戦略」はこれからですよ、きっと。

そのうち「一億総アマチュア作詞・作曲・編曲者」時代?

それにしても一昔前では考えられなかったことです。ちょっと性能のいいPCとちょっと性能のいいオーディオインターフェース、「Vocaloid」シリーズのいずれか、そして音声を元の曲とミックスするための「音声編集ソフト」があれば誰でも1曲作りだせる。楽器等の音源は著作権料無料のソフトウェア(フリーソフトウェア)があるのでそれを使えばいい。少なくとも歌を歌わせるためにプロの歌手を雇う必要も、自らの音痴ぶりをさらけ出す必要もなくなったのです。
曲も歌詞も自ら作った「完全自作曲」であれば歌声付きで自由に作れる。著作権の切れたクラシック曲なら編曲して世に送り出すことも自由。商業的に公開する目的で作った作品でなければ、クリプトン・フューチャー・メディア社に使用許可を取る必要もない*2。「誰でも作詞・作曲・編曲者」時代はもう到来していますね。でもここからさらに「プロ」としてやっていくにはまた大きな「壁」があるわけで……と書いたところで本日付の日記は終わり。「Vocaloid」ブームはしばらく持続しそうだから様子を見ることにしましょう。ええ、札幌市の動向と共に。

*1:とはいえ、実際にやったのは1作品だけでしたが。もちろん……いわずもがな。

*2:初音ミク」のエンドユーザー使用許諾契約書((http://www.crypton.co.jp/download/pdf/eula_cv01.pdf)第三条「別途使用許諾が必要な場合」及び第七条「責任の制限」